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シモキタボイス シンポジウムの記録

【Symposium4】 8月14日(火)16:30-18:00

「文化と生活と街と・下北沢」――歴史が生む磁場

●パネリスト
吉見俊哉 (東京大学大学院情報学環学環長)
きむらけん (「北沢川文学遺産保存の会」・文化探査者)
廣木隆一 (映画監督)
岩本光弘 (「シネマアートン下北沢」支配人)
●司会
大木雄高 (「下北沢商業者協議会」代表)
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下北沢は「文士町」だった

会場風景

大木 : 下北沢が特異な文化を持っているのは歴史によって育まれた磁場があるから、という側面があると思います。こういったことに詳しい4名の方にご列席願いまして、一時間半トークしていきたいと思います。
 下北沢には戦前から文士(小説家)が住んでおり、活字文化が栄えておりました。やがて文化の王者になっていく映画が圧倒的になり、それから演劇文化が盛んになりました。これらを通過してきた街が下北沢です。これはどこにでも起こるのではなく、下北沢だからではないかと思います。
 下北沢は戦災にあわず、戦前から戦中戦後、こういった文化が壊れないで今日まで続いています。長年に渡ってこういう歴史をくぐってきたことは、下北沢の土に染み付いているわけです。どこか勘が働いて、ここに人間が寄ってくる。「この街は素敵、住みたい!」と言って、外来人口・住民人口が増えてきた。一挙手一頭足にはできないこの街の文化の磁場について古くから探求しているきむらさんから語っていただこうと思います。

きむら : 僕は、人から話を聞いてそこにその土地特有のものがないかどうかを探っています。ここ1、2年でかれこれ300人くらいの人に会いました。僕は本当は電車少年なんだけど、この辺はいつも自転車で回っているんです。僕の自転車はガタガタで、自転車屋さんに行っても乗りすぎだって言われます。地球の2,3周分は回ったでしょう。自転車で行くと何がわかるかというと、坂が、傾きがわかる。自身の足が土地のうねりを覚えているんです。実は僕は世田谷区の住民ではありません。目黒区民です!

大木 : いや、そんなに声を大にして言わないでいいです(笑)。

会場風景

きむら : 下北沢より自由が丘の方が近いんです。自由が丘も「鉄道エックス」(鉄道と鉄道が交差している地点のこと)ですが、自由が丘にはあまり興味がわかないんです。下北沢の「鉄道エックス」は未知なんです。わけがわからない…。いろいろな人からいろいろな話を聞いて、個別の話があとになって結びついてくるんです。それがおもしろい。
 僕は、下北沢に文士がたくさんいたということを調べています。例えば、萩原朔太郎、横光利一はここで亡くなった。著名な方だと、斉藤茂吉もそうです。発展過程にここに住んだ人たちと、ここで亡くなった人たちの二種類があります。
このあいだ、ガウディのお弟子さんの有名な建築家をお父さんに持つ、今井兼介さんと話をしました。彼は早稲田の建築出身で友達はみんな西武線に住んでいたけれど、彼だけ意図的に下北沢に住んだそうなんです。「みんながいるところがいやだ」と言って。進取性というか、独立性というか、そういった気質を持った人たちが多いんですよね。横光利一の『新感覚派』なんて、日本で第一級ですよ。ここ(ザ・スズナリ)の前には川があって、そのむこうに小田急線があった。このあたりから森巌寺まではずっと松林だった。北川冬彦の奥さんか誰かが利一のところに来て、池ノ上の駅まで送っていくとき、途中に松林があるから利一が松を拾うんです。「これで松葉酒を作るとおいしいんだよ。胃に効く。」と言って。ちなみに、彼は胃潰瘍で死んでいます。
 このように、下北沢に文士たちが偶然来合わせた場合が多いです。徒党を組んでいない。けれど、ともかく大勢いるんです。萩原朔太郎も東北沢にいて、次に下北沢にいて、京王帝都が開通するのでうるさくなるから代田に住んだ。『氷島』は、あそこで編んだんですよね。下北沢は詩人の密度も高い。また教会も集まっていて、10以上あります。この街にはいろんな価値が集まっている。「下北沢文士町」という呼び方は私がつけました。村ではなく町だと思うんです。それは、馬込や田端の文士村みたいに徒党を組んでいない、党派的ではないからです。下北沢で文学がはやり始めたのは昭和10年代です。なんで集まったのかというと、鉄道です。昭和2年に小田急が開通します。そして、昭和8年に帝都線が開通し、非常に便利になった。渋谷、新宿ともほどよい距離なんです。下北沢が「文士町」だったということは、個別に人からいろいろな話を聞いて今わかりかけている。全体像はまだよくわからないんですが。

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